マーケティング部門が獲得した見込み顧客を、営業部門が十分に追えていない。一方、営業部門では「マーケティング経由の見込み顧客は受注につながりにくい」と捉えられている。多くのBtoB企業が直面する、営業とマーケティングの連携課題です。
SCSK株式会社のPROACTIVE事業本部も、かつて同様の課題を抱えていました。その解消に向け、2024年に両部門をつなぐインサイドセールス組織を立ち上げます。
営業経験者を中心とした役割設計、SalesforceやOutreachを活用した業務基盤の整備、ベテラン営業や情報システム部門との地道な関係構築。こうした取り組みを積み重ねた結果、目標値の200%を達成する組織へと成長を遂げました。
本記事では、株式会社MarooがSCSK株式会社と共同で開催したイベント「SCSKが目標値200%を実現——インサイドセールス組織立ち上げの設計と実践」の模様をお届けします。
当日は、SCSK株式会社 PROACTIVE事業本部 ビジネスストラテジー&マーケティング部でインサイドセールスチームを率いる御守貴光氏を迎え、組織の立ち上げから成果を生み出すまでの設計と実践について、株式会社Maroo代表取締役の山梨寛弥が伺いました。
登壇者のご紹介
SCSK株式会社 PROACTIVE事業本部 ビジネスストラテジー&マーケティング部 御守 貴光氏
半導体商社を経て、2022年にSCSK株式会社へ入社。ERP営業に従事した後、2024年からインサイドセールスの立ち上げに参画。現在はチームリーダーとして、商談創出の仕組み化と運用の高度化に取り組む。
株式会社Maroo 代表取締役 山梨 寛弥
株式会社ZUU、マルケト、Brazeなどで営業・マーケティング戦略や顧客との関係構築を支援。2021年に株式会社Marooを設立し、スタートアップや中小企業を中心に、営業・マーケティング領域の組織づくりとデジタル活用を支援している。
営業とマーケティングの連携課題を起点に、インサイドセールス組織を立ち上げ
山梨: はじめに、SCSKが提供する「PROACTIVE」について教えてください。
御守: PROACTIVEは、1993年に誕生した国産ERPです。会計や販売、生産管理などの基幹業務に加え、非財務データも蓄積し、AIによる分析や示唆につなげられるビジネスプラットフォームへと発展してきました。
導入実績は7,500社を超えており、特定の業界に限らず、幅広い業種のお客様に活用いただいています。

山梨: インサイドセールス組織を立ち上げる以前は、どのような営業体制だったのでしょうか。
御守: 当時はインサイドセールスが存在しなかったため、営業担当者が電話やメールによる最初の接触から提案、受注までを一貫して担っていました。
Salesforceも導入しておらず、顧客情報は主にExcelで管理していました。営業活動の進め方も、それぞれの経験や勘に委ねられていたと思います。
そのため、顧客とどの程度接続できているのか、目標に対して案件がどれだけ積み上がっているのかを把握するには、その都度データを集計しなければなりません。経験豊富な営業担当者が成果を上げる一方、その方法を組織全体で再現することも容易ではありませんでした。
山梨: Marooが最初にマーケティングと営業の双方へ話を聞いたとき、両部門の認識にも違いがありました。
営業側からは「マーケティングから共有される見込み顧客は、まだ検討段階が浅い」という声がありました。一方、マーケティング側は、見込み顧客を共有しても、営業担当者が日々の業務に追われ、十分に対応してもらえないと感じていました。
そうした状況で、なぜインサイドセールスが必要だと考えたのでしょうか。
御守: マーケティングと営業は、本来一体となって顧客に向き合うべきだと考えていました。その両部門をつなぐ「ハブ」として、インサイドセールスを機能させる必要があると考えたのが出発点です。
まず取り組んだのは、PROACTIVEのWebサイトから入った問い合わせや資料請求に対して、きちんと電話やメールで接触し、成果を数字で示すことでした。
インサイドセールスが営業にどれだけ貢献できるのかを示す。それと同時に、その見込み顧客を獲得したマーケティングも、どれだけ成果に貢献しているのかを営業側に認識してもらう。そこを意識して立ち上げました。
2024年6月ごろからMarooの支援を受け、顧客への接触方法やメールの内容、営業へ案件を引き継ぐまでの流れ、顧客情報を管理する仕組みなどを整備しました。約10カ月の立ち上げ期間を経て、2025年4月ごろからは社内メンバーを中心とした運用へ移行しています。
件数から案件金額へ。営業の受注目標を起点に指標を設計
山梨: 現在、インサイドセールスでは、どのような指標を追っているのでしょうか。
御守: 立ち上げ当初は、まず営業へ引き継いだ案件の件数を追っていました。ただ、同じ一件でも案件の規模は異なります。
そこで現在は、営業へどれだけの案件総額を渡せたかを重視しています。営業の受注目標と想定受注率から、必要な案件総額を逆算する考え方です。
山梨: 例えば、営業の受注率を30%と想定するなら、受注目標の約3倍に相当する案件を準備するという設計ですね。
単純なアポイント件数ではなく、営業の受注目標から逆算して、インサイドセールスがどの程度の案件金額を生み出す必要があるかを考えている。その点が、営業と同じ目線で成果を見るうえでも重要だと感じます。

「内勤営業」という認識を、地道な対話で変える
山梨: インサイドセールス組織を新設しても、その役割が社内ですぐに理解されるとは限りません。立ち上げ当初、営業からはどのような組織だと見られていたのでしょうか。
御守: 「インサイドセールス」という言葉から、単純に内勤の営業だと思われることが多かったです。
「NDAを結んでおいて」「案件はあるけれど、お客様と連絡が取れないから代わりにフォローしておいて」と依頼されることもありました。本来は営業成果をともにつくる組織ですが、最初は営業が手を回せない仕事を引き受ける立場として、下に見られることも多かったと思います。
山梨: そこから営業との信頼関係を、どのようにつくっていったのでしょうか。
御守: まず、営業へ渡した案件について、必ず評価をもらうようにしました。渡して終わりにせず、営業が対応した結果を聞き、次の活動へ反映していきました。
案件を渡すときも、顧客情報だけを登録するのではなく、「このお客様はこう考えている」「現在の状況からすると、こうした理由で案件化できる可能性がある」と、インサイドセールス側の見立てを一件ずつ伝えています。
自分たちの目標を達成するために「お願いだから案件として引き受けてください」と頼むのではありません。営業にとっても取り組む価値があると考える理由を伝え、一緒に判断してもらうことを大切にしました。
案件を渡す条件を、あえて固定しなかった理由
山梨: SCSKでは、営業へ案件を引き継ぐ条件を、あえて細かく固定していません。この設計には、どのような意図があったのでしょうか。
御守: 例えば「三つの条件のうち二つを満たしたら営業へ渡す」と決めると、インサイドセールス側には「条件を満たしているのだから、引き取ってほしい」という意識が生まれます。
一方、営業側からすると、条件だけを根拠に案件を押しつけられても納得できません。それでは、また部門間に溝ができてしまいます。
現在の人数規模だからできることでもありますが、一件ずつ顧客の背景や自分たちの見立てを伝え、営業と会話しながら引き継ぐかどうかを判断しています。
山梨: 営業からインサイドセールスへ案件が戻される場合は、どのように対応していますか。
御守: Salesforceに記録された活動履歴を確認したうえで、15〜30分ほど打ち合わせを行います。その中で、次にどのような状態になったら、もう一度営業へ渡すのかを決めます。
もちろん、すべての要望を受け入れるわけではありません。営業から「競合製品を選ぶ可能性がなくなったら、もう一度渡してほしい」と言われたこともありましたが、その状態をインサイドセールスだけでつくるのは難しいですよね。
そうした場合は、営業と話し合ったうえで、その案件を追わないと判断することもあります。
山梨: 営業との信頼関係を築くことは、営業の要望をすべて受け入れることではないということですね。
互いの役割と責任を理解し、顧客と事業にとって最適な判断をともに考える。その対等な関係が、部門を越えた連携の土台になっているのだと思います。
アポイント獲得だけでなく、一次商談まで担う

山梨: SCSKのインサイドセールスは、アポイントを獲得して営業へ引き継ぐだけでなく、顧客の状況に応じて一次商談まで担当しています。立ち上げ当初から、その方針だったのでしょうか。
御守: 最初は、アポイントを獲得した時点で営業へ渡したいと考えていました。
ただ、営業には社歴20年以上のベテランも多く、インサイドセールスに求める情報の水準が高かったんです。
なぜPROACTIVEに関心を持ったのか。競合製品も検討しているのか。その中で、なぜ当社と話したいのか。そこまで把握したうえでなければ、営業へ引き継ぐのは難しいと分かりました。
そこで、インサイドセールスが30分から1時間ほどの一次商談を行い、顧客の検討状況や背景を確認する形にしました。
山梨: PROACTIVEは検討期間が長い製品です。案件数を増やしすぎると、営業が本来集中すべき案件へ時間を使えなくなる可能性もあります。
御守: 受注までの期間は基本的に半年以上で、長ければ年単位です。営業担当者が同時に深く対応できる案件も、一人あたり3〜4件程度です。
そのため、すべてのアポイントを一律に営業へ渡すことはしていません。
すでに提案依頼書を出す予定があるなど、検討が進んでいる顧客は、一次商談を省いて速やかに営業へ引き継ぎます。一方、まだ情報収集の段階であれば、インサイドセールスが3カ月ごとに接点を持ち、具体的な検討時期が訪れるまで関係を育てます。
山梨: その継続的な接点づくりには、セミナーも活用していますよね。
御守: PROACTIVEやERPを直接訴求する内容だけでなく、製品とは直接関係のないテーマのセミナーも開催しています。
今すぐ導入を検討していない顧客にも役立つ情報を届け、接点を切らさないことが目的です。そこから状況を確認し、検討時期が近づいた段階で営業へつなげていきます。
山梨: 現在の組織体制についても教えてください。
御守: インサイドセールスは私を含めて6名、マーケティングは10名弱、営業は約30名です。
インサイドセールスの中でも、過去に接点を持った顧客を掘り起こす担当、自社サイトからの問い合わせに対応する担当、一次商談を担当するメンバーなどに分かれています。
一次商談には製品と顧客業務への理解が必要なので、営業経験のあるメンバーを配置しています。
Outreachを「司令塔」に、成果につながる行動を仕組み化
山梨: 再現性と生産性を高めるため、SCSKではSalesforce、Outreach、MiiTel、Outlookを連携させています。中でもOutreachを、インサイドセールスの「司令塔」と位置づけていますね。
御守: 顧客に関する情報はSalesforceへ集約しています。Outreachで電話やメールの予定を立てると、その内容がSalesforceにも自動で記録されます。
MiiTelでの通話やOutlookから送ったメールの履歴も残るため、手作業で記録する負担を減らせます。
人が一つずつ予定をつくると、どうしても対応漏れが発生します。Outreachでは、電話とメールをどの順番で何回行うかを、一連の手順として設定できます。顧客と接続するまでに必要な行動が自動で予定化されるため、担当者の経験や記憶だけに頼らず、やるべきことを実行できます。
山梨: 立ち上げ段階では、成果につながる行動の「型」自体がまだありません。どのように見つけていったのでしょうか。
御守: そこはMarooに協力してもらいました。メールをどのような構成にするか、どのような順番で接触するかについて助言をもらい、検証を重ねました。
特に成果につながったのが、メールの冒頭で面談の候補日時を1つだけ具体的に提示する方法です。文面上の小さな変更ですが、返信率が従来の4倍になった例もありました。
山梨: 自動化すると、すべての顧客に同じ内容を送る画一的な営業になる懸念もあります。
御守: Outreachを活用するのは、基本的に顧客と最初につながるまでです。その段階では、どれだけ関心を持ってもらい、接点をつくれるかに重点を置いています。
一度接続できた後は定型文ではなく、担当者が顧客の状況に合わせた文章を送ります。そこで個別の関係をつくり、中長期で育成していきます。
既存の顧客名簿に電話とメールを組み合わせて接触した場合、現在の接続率は約55%です。
数万件の顧客状況を、12段階の「ISフェーズ」で可視化
山梨: SCSK独自の仕組みとして、顧客の状態を12段階に分けた「ISフェーズ」があります。なぜ、この仕組みをつくったのでしょうか。
御守: 1万件、2万件、3万件と顧客情報が蓄積される中で、誰がどの顧客に接触し、現在どういう状態なのか分からないことが、個人的にすごく嫌だったんです。
そこで、顧客と接続できているか、アポイントを獲得できているか、営業へ引き継いでいるかといった状態を、大きく四つ、細かく12段階に分けました。
まだ誰も接触していない顧客、現在接触中の顧客、今は見込みがなくても半年後に再び接触した方がよい顧客などを、すぐに抽出できるようにしています。

(数万件の顧客情報を管理するため、顧客との接続状況や営業への引き継ぎ状況を12段階に分けた「ISフェーズ」について語る御守氏)
山梨: 目先のアポイントだけでなく、将来の案件候補を管理するための設計ということですね。
対象となる企業が1万社を超える中で、優先順位はどのようにつけていますか。
御守: 自社が価値を提供しやすい企業像をつくり、対象を絞る取り組みも行っています。
例えば建設業や、PROACTIVEが強みを持つ商社・卸売業です。業種によってメールの内容も変えています。
一方、当社が売りたい内容と、顧客が抱えている課題が合わないこともあります。インサイドセールスが顧客から得た反応を営業やマーケティングへ返しながら、対象企業や訴求内容を見直しています。
組織を動かした「社内でのリアルな接点」
山梨: インサイドセールスを社内に根づかせるうえで、御守さんは「とにかく足を運ぶ」ことを重視していました。営業との関係構築では、業務外でも積極的にコミュニケーションを取っていたそうですね。
御守: 普段の業務では、営業担当者や部課長も忙しいので、どうしても短い会話になってしまいます。
一方、飲食の場では、「インサイドセールスにはもっとこうしてほしい」「もっと踏み込んできてほしい」といった本音を聞くことができます。
営業チームが居酒屋で飲んでいると聞けば、説明に必要な資料を印刷して、その場まで会いに行ったこともありました。業務内でも業務外でも、まずは直接話すことを大切にしています。
山梨: Outreachの導入時には、情報システム部門にも直接会いに行ったと伺いました。
御守: 当初は情報システム部門から「社内規定上、利用できない」と言われました。
説明させてほしいと伝えると、オンライン会議用のTeamsリンクが送られてきたのですが、担当者が社内にいると分かったので、「今、何階にいますか」と聞いて、その場ですぐに会いに行きました。
山梨: 対面で会うことに加えて、相手を説得するための準備も必要ですよね。
御守: もちろん、熱意だけでは難しいと思います。相手がどこを懸念し、何を質問してくるかを事前に想定し、必要な回答を用意しました。
Outreachについても、Marooに確認しながら準備しています。論理的に説明できる状態をつくったうえで、「この仕組みがあれば事業をどう変えられるのか」を直接伝えることが大切です。
山梨: 単に押しの強さで進めるのではなく、相手の判断基準を理解し、懸念への回答を用意したうえで直接会いに行く。「論理を基盤とした熱量」が、社内を動かす力になったのだと思います。
AIに任せる領域と、人が担う領域を分ける
山梨: インサイドセールスでは、AIをどのように活用していますか。
御守: 顧客へ送るメールの作成には、そこまで使っていません。一方、接触前の企業調査や、顧客の課題に対する仮説づくりには活用しています。
あらかじめ指示文を用意し、企業情報を基に、PROACTIVEがどのような課題へ貢献できそうかを調べています。
Salesforce上では、同じ企業にひもづく担当者情報をAIが要約する仕組みも使っています。
SCSK全社の営業情報が、完全に一つのSalesforceへ集約されているわけではありません。そのため、別の事業本部がすでに接触している企業へ連絡し、社内で顧客対応が重複する可能性があります。
AIの要約を基に、同じ企業のどの担当者へ、社内の誰が接触しているかを確認しています。同じ部署への重複接触は避け、別部署であれば新たに接点をつくるといった判断に役立てています。
山梨: 社内の関係者を説得するための台本づくりにも、AIを使いますか。
御守: そこには使いません。AIで台本をつくると、それを読むだけになってしまいます。
台本をつくっている時間があるなら、実際に3回くらい話した方がよいと思っています。人を動かす場面では、自分の言葉で直接話すことを優先しています。
組織を動かすのは、仕組みと対話の積み重ね
SCSKの取り組みから見えてきたのは、インサイドセールス組織の立ち上げは、役割や数値目標を決めるだけでは完了しないということです。
顧客の状況を12段階で可視化し、成果につながる行動をツールで再現できるようにする。一次商談を担うメンバーを置き、営業が集中すべき案件を見極める。件数だけでなく、営業の受注目標から逆算した案件金額を追う。
こうした仕組みを整える一方で、案件を渡す理由や戻す条件を一件ずつ話し合い、営業チームが飲んでいる居酒屋や、情報システム部門がいる別フロアへ自ら足を運ぶ。
SCSKのインサイドセールスの成果は、営業支援ツールや精緻な業務設計だけで生まれたものではありません。社内の関係者と直接向き合い、一人ずつ理解者を増やす。そうした泥臭い一歩の積み重ねが、組織を動かす土台になっていました。
立ち上げから内製化を経て、SCSKのインサイドセールスは、営業の補助役ではなく、マーケティングや営業とともに売上をつくる組織へと変化しています。
顧客を起点とした役割設計、技術による行動の再現、部門を越えた信頼構築。この三つの観点は、これからインサイドセールスを立ち上げる企業だけでなく、立ち上げた組織を次の段階へ進めたい企業にとっても、大きな示唆になるはずです。