ITソリューションを提供する大手、SCSK株式会社では、営業組織の抜本的な変革に取り組んでいます。中でもPROACTIVE事業本部は、ERP製品「PROACTIVE(プロアクティブ)」を軸に、顧客への価値提供を最大化すべく、営業現場の業務負荷を軽減し、役割分担と機能分化を前提とした新たな営業体制の構築を進めてきました。
本記事では、同事業本部がインサイドセールスをゼロから立ち上げ、どのように営業プロセス全体の再設計と最適化を実現したのか。その具体的な取り組みと成果について、PROACTIVE事業本部ビジネスストラテジー&マーケティング部の松岡有里子氏および御守貴光氏にお話を伺いました。
───まずは、御社のPROACTIVE事業でのお二人の役割について教えてください。
松岡氏:PROACTIVE事業本部にて、本部内の事業管理基盤の整備を担当しています。当本部は、自社開発のERP製品「PROACTIVE」において、製品企画から導入支援、導入後の保守運用までを一貫して提供しており、製販一体の体制で顧客企業の業務変革を支援しています。
御守氏:同本部にて、インサイドセールス組織の立ち上げおよび運営責任を担っています。営業活動の分業・専門化を図る「The Model(ザ・モデル)」を基盤とした組織の構築に初期段階から携わり、業務設計から体制構築まで一貫して取り組んできました。
営業の負荷分散と専門性向上に向けた組織改革が急務だった
─── 2024年2月より本取り組みがスタートしましたが、当時直面していた課題についてお聞かせください。
松岡氏:当時は、営業プロセスの分業と再設計を目的に「The Model*」の導入を検討していました。背景には、営業担当1名あたりの担当範囲が非常に幅広く、重点顧客へのリソースの集中が難しくなっていたことがあります。顧客への価値提供をさらに高めるためには、営業活動の負荷を適切に分散させ、提案の質と量を両立させる仕組みが不可欠でした。
*「The Model」(ザ・モデル):
マーケティングから営業、カスタマーサクセスに至るまでの情報を可視化・数値化し、営業効率の最大化を図る営業プロセスモデル
また、個々の担当者が高い専門性を有している一方で、領域が広すぎることでハイパフォーマーへの依存が進行し、属人的な営業体制となっていました。加えて、プレイングマネージャーが多くの業務を兼務しており、組織全体としてのマネジメント機能が弱い状況でした。この状況を打破し、再現性のある体制を構築するには、抜本的な組織設計の見直しが必要だと強く感じていました。
御守氏:部署や担当者ごとに営業パイプラインの構築状況や案件の進行度に大きなばらつきがあり、組織として安定的かつ継続的にパイプラインを供給できる体制が求められていました。その実現には、「攻め」の営業機能を担うインサイドセールスの導入が必要不可欠であると考えていました。
また、営業担当のカバー範囲が広すぎるがゆえに、日々の提案活動に忙殺され、顧客との中長期的な関係構築やリードの継続的な育成に十分なリソースを割けていないという構造的な課題も存在していました。特に、ERPのように検討から本番稼働までに2~3年要する商材の場合、顧客の導入検討フェーズに寄り添いながら、長期的に関係性を維持していく営業体制が不可欠です。
しかし、こうしたプロセス全体を一人の営業担当が担うのは負荷が大きく、効率的かつ継続的な顧客対応が難しくなります。そこで、営業が提案準備やクロージングに専念できるよう、上流のナーチャリングや顧客接点の初期対応はインサイドセールスが担うという分業体制を構築しました。

経験と勘に頼る営業から、データドリブンで標準化されたプロセスへ
───営業組織の再構築は、社内にとっても大きな意思決定だったかと思います。今回、伴走パートナーとしてMaroo社を選ばれた理由をお聞かせください。
御守氏:インサイドセールスの立ち上げに着手した当初、事業本部に十分な知見や運用ノウハウがなく、まさにゼロベースからのスタートでした。その中でMaroo社は、外資系IT企業が実践する営業組織の構築経験に基づき、我々が進むべき方向を言語化し、WBS(作業分解構造)やロードマップの策定など、実行フェーズまでを見据えた具体的な伴走支援を行ってくれました。
支援にあたっては、チャットやオンライン会議を中心に、レスポンスの早さと柔軟な対応が際立っており、スピード感を持ってプロジェクトが推進できました。
インサイドセールス組織は昨年6月に正式に立ち上がり、1年が経過した現在、ようやく運用が軌道に乗ってきたと実感しています。インサイドセールスとフィールドセールスの役割分担が明確化され、達成すべきKPIやプロセスも定義されつつあり、組織として「やるべきこと」が見える化された状態になっています。
松岡氏:Maroo社には、営業DX推進の一環としてSalesforceの構築・設計フェーズから深くご支援いただきました。特にプロジェクト初期には、属人的かつ経験と勘に頼りがちだった従来の営業マネジメントプロセスについて、Maroo社が持つ再現性の高いベストプラクティスをベースに言語化・構造化していただき、非常に大きな支援となりました。 構築・運用のフェーズに入ってからも、Maroo社にはマーケティングプロセスまで含めて幅広く壁打ちの相手となっていただき、議論を通じて仮説と判断をブラッシュアップすることができました。また、Salesforceの実装においては、要件整理から設計、構築までの移行プロセスが非常にスピーディかつ一貫性があり、プロジェクト全体の進行もスムーズでした。

システム導入に留まらず、営業プロセス全体の最適化を伴走
─── Maroo社との伴走の中で、特に印象に残っている取り組みや、実際のプロジェクト推進において、どのようなやりとりが成果につながったと感じていますか?
御守氏:インサイドセールスの設計においては、まずMaroo社とともにたたき台となるプロセスを策定し、それを自社の営業文化や顧客特性に合わせてローカライズしていく、というステップを踏みました。週3回の壁打ちミーティングを重ね、設計フェーズに多くの時間とリソースを割いた結果、Salesforceによるプロセス構築がスムーズに進行し、現在は運用・実行フェーズへ移行できています。
また、ナーチャリング体制の整備も大きく前進しました。特に新規リード対応においては、「一定期間内に3回の電話・3回のメールを行っても反応がなければ、マーケティングによる継続ナーチャリングへ移行する」といったSLA(Service Level Agreement)ベースの追客ルールを策定しました。これをインサイドセールスの標準プロセスとして定着させることで、顧客状況や対応ステータスの基準が明文化されました。
従来は、各担当者の判断に依存した属人的なリード管理が主流で、たとえば初回架電後のタスク設定やリマインドの抜け漏れが発生しやすい状態でした。しかし、SLAの導入によりタスクの優先順位・対応ステータスが明確化され、リソース配分やフォローアップのタイミングも戦略的に管理できるようになりました。
その結果、インサイドセールス全体としての生産性向上と、誰が対応しても成果が再現される、標準化された運用プロセスや体制基盤が整いました。
さらに、インサイドセールスが対応すべき顧客の状態を9つのステージに細分化した「ISフェーズ」を独自に定義しました。これにより、顧客の検討度合いや関心レベルに応じてアプローチの優先度を可視化したことで、より確度の高い見込み顧客に対して、適切なタイミングで集中的にナーチャリングを実行することが可能となりました。結果として、SAL(Sales Accepted Lead=商談設定)への転換効率を最大化するための仕組みが整備され、営業プロセス全体の精度とスピードが着実に向上しています。
松岡氏:Salesforceを活用したSFA(営業支援システム)の構築を起点に、リード施策の再設計やインサイドセールスのプロセス可視化を段階的に進めてきました。現在は、個別最適ではなく営業プロセス全体の全体最適化フェーズに入っています。
初期段階では、まずSalesforceの基盤構築と、フィールドセールス側の業務プロセス設計を実施。その後、リード管理の視点から、リード獲得から商談化・受注までの一貫したプロセスとオペレーションの整備に取り組みました。単なるシステム構築に留まらず、運用設計やリードのオーナーシップ定義、タスク管理の基準までも詳細に整理しています。
多くのベンダーがツール導入や初期構築にとどまりがちな中、Maroo社はツールの枠を超えて営業・マーケティング双方のプロセス全体に踏み込み、構造的に設計・改善を支援してくれた点が非常に印象的でした。
さらに、営業成果と収益を精緻に分析するためのデータ項目と構造の最適化にも取り組み 、Salesforceのデータがマーケティング領域においても活用できるデータ基盤として機能する状態まで整備が進んでいます。これは、短期的な構築支援では実現し得ない、大きな成果だと感じています。
リードの定義と育成プロセスの明確化で、営業の生産性を向上
───インサイドセールスを起点とした変革によって、営業活動や業績にどのような手応えを感じていますか?また、成果が見え始めたと感じたのは、どんな指標や出来事からでしたか?

松岡氏:マーケティング部門と営業部門がそれぞれ活動していたものの、インサイドセールス機能が存在していなかったため、両者の間に明確な連携基盤がなく、実質的に分断された状態でした。マーケティング施策の成果は、SQL(Sales Qualified Lead)の数値としては可視化されていたものの、実際の売上への貢献度やプロセス上の影響は見えづらいという課題がありました。
現在は、Salesforceを中心としたシステム活用によりプロセス全体が可視化され、KPIを軸とした定量的なパフォーマンス評価と意思決定が可能な体制へと進化しています。これにより、部門ごとに異なっていた指標の認識が統一され、共通の数字をもとに営業・マーケティング間の意思決定や優先順位付けを行える環境が整いつつあります。
さらに、インサイドセールスチームが両部門の橋渡し役として機能し、リードの質的判断や営業提案の整合性を担保することで、顧客との接点全体における体験価値の一貫性が保たれるようになりました。
御守氏:Maroo社の支援を受けて以降、マーケティング施策によって獲得したリードが、どのような意図や背景でSQLへと進行し、パイプラインに乗っていくのかを可視化できるようになりました。
インサイドセールス立ち上げ初期は手探りの状態でしたが、Maroo社との協働を通じて役割と業務フローが明確化され、「どのタイミングでフィールドセールスに引き継ぐべきか」という引き渡し基準が共通認識として浸透してきたと感じています。
営業アプローチの優先順位を決めるうえでは、マーケティングだけで完結させるのではなく、フィールドセールスとの密な連携が不可欠です。Maroo社には、その橋渡しとなるプロセス設計においても伴走いただき、実務に即した形で設計を落とし込めたことが非常に有益でした。
機能別組織における典型的な課題として、部署ごとのKPIや認識のずれが挙げられますが、これを解消するには部門横断でプロセスを共通言語化し、再現性のある業務運用を可能にすることが重要です。具体的には、リードがどのステージを経て進行するかを定義し、各フェーズにおけるExit Criteria(遷移判定基準)やオーナーシップを明確にすることで、「このリードは誰が、どのタイミングでフォローするか」が組織全体で共有されるようになりました。
その結果、リード対応の漏れや属人化が解消され、顧客に対して継続的なアクションを取れる体制が整いました。
松岡氏:部署間の連携が強化され、リード育成に対する事業本部内の意識が高まった点も、大きな成果の一つです。従来は、獲得したすべてのリードに対して「営業が商談化を目指す」ことを前提としており、営業リソースが分散しやすい構造でした。
しかし、インサイドセールスの立ち上げを契機に、「特定の基準を満たした顧客のみを営業に引き渡す」というプロセスが明確化・標準化され、リードクオリフィケーション(絞り込み)の基準が事業本部内で共有されるようになりました。
これにより、営業担当者は本当に注力すべきリードにリソースを集中できるようになり、提案の質と商談化率の双方を高める体制が整いました。単なるリード数の追求ではなく、「選別」と「育成」のサイクルの高速化が、営業生産性の向上に直結しています。
営業の固定概念を覆し、パイプラインの質とリード数を向上
───分業体制や可視化が進んだことで、日々の業務にどのようなポジティブな変化が現れましたか?
御守氏:インサイドセールスの立ち上げ当初は、「うまく機能しないのではないか」という懐疑的な声も多く、事業本部内では従来通り営業がすべてを担う前提で動いている部分がありました。しかし、現在では営業側が積極的にインサイドセールスにリードの見極めやナーチャリングを委ねるようになり、分業体制が自然に受け入れられ、定着してきたと感じています。
以前は、顧客向けアンケートにおける「直近2年以内にシステム導入やリプレースを検討しているか」といった単純なYes/Noの分岐だけでリードを判断していましたが、現在では製品知識を持つインサイドセールスが、事前に電話やオンライン商談を通じて顧客の状況やニーズを丁寧に把握し、その内容に応じて最適な情報提供やネクストアクションを設定しています。
このようなプロセス改善により、単なるリード数の増加にとどまらず、パイプラインそのものの質的向上にも貢献できており、SAL(Sales Accepted Lead=商談設定)の件数も着実に増加しています。
松岡氏:Salesforceを活用して受注のフォーキャスト(予測)をチーム全体で共有する仕組みを整えたことで、パイプラインの件数や金額、進捗状況などの数値が可視化され、情報がリアルタイムで把握・共有できるようになりました。
また、営業現場では、マネージャーが定期的にメンバーへフィードバックを行う機会が増えました。進捗の把握も、これまでの「感覚ベース」から、「ダッシュボード上の数値を用いた客観的なマネジメント」となったことで、会議や朝会でのコミュニケーションがより活発になり、ツールを活用した業務の可視化と習慣化が定着しつつあります。
さらに、可視化されたパイプラインデータを起点に、目標の売上金額から逆算し、受注達成に向けて案件を着実に進捗させていく、そうした目前の案件だけに囚われず、中長期的なパイプライン設計への意識が根付き、文化として定着していくことを期待しています。

全体設計の構築を通じて取得したデータを営業戦略に活かしていきたい
───今後の展望について、お二人目線で教えてください。
御守氏:インサイドセールスの完全内製化が、私たちの最終的なゴールです。現時点では、マーケティング起点で創出されたリードに対するナーチャリングや初期フォローが主な役割ですが、今後はBDR(Business Development Representative)機能の強化を図り、受け身ではなく自ら案件を創出する組織へと進化させていきたいと考えています。
その実現に向け、Maroo社のメンバーとは高いレベルで視座が一致しており、手戻りのないスピーディなオペレーションを通じて、顧客との強固な関係構築につながっています。
次のステップとしては、BDRでアプローチすべきターゲットの明確化が重要になります。マーケティング施策で広くリードを獲得する一方で、特定の業種や属性に対してピンポイントに攻めるターゲティング型のアプローチを並行して実践していきます。
その中でも特に、バーティカル(業種特化)戦略は、今後の成長を左右する重要な軸と捉えています。インサイドセールスが、理想的な企業属性(ICP:Ideal Customer Profile)やバイヤーペルソナに対して、適切にリソースを配分し、タイミングよく顧客接点を持てるかどうかが、戦略の実効性を大きく左右します。
松岡氏:営業DXを推進していくうえでは、単なるプロセスのデジタル化ではなく、質の向上こそが本質的なテーマだと考えています。その中でも特に重要なのが、意思決定の基盤となるデータ精度の向上です。
現在、全体設計がひと通り整った段階にあり、今後はその設計を前提とした定期的なデータモニタリングを実施し、その分析結果を営業戦略へフィードバックしていくサイクルを回していきたいと考えています。
こうした定量的なデータをもとに組織の現状を的確に把握し、来年度・再来年度の営業計画を立案する際の精度向上や現実性の担保につなげていきます。特に、インサイドセールスにおけるパイプラインの不足状況をデータから特定し、早期に対策を講じられる体制を構築することが、営業全体の安定運用と成長を支える重要な要素になると捉えています。
───どのような組織にMaroo社を勧めたいと思いますか?
御守氏:営業組織の立ち上げや再構築を検討しているすべての企業に、Maroo社の伴走支援は非常に有効だと感じています。特に、自社だけで手探りで進めるのではなく、他社の成功事例や実績のあるノウハウを早期に取り入れることで、戦略の方向性を早く明確にできる点が大きな価値です。
他社がどのようなアプローチを取り、どこに壁があったのかという事例を参照することで、自社の状況に応じて「そのまま適用すべきか」「カスタマイズが必要か」の判断も容易になります。そうした外部視点の取り込みが、組織変革のスピードと精度を大きく左右すると実感しています。
松岡氏:私も同様の考えです。営業体制の確立を急ぎたい企業、もしくは最小限の試行錯誤で理想的な運用体制を構築したい企業にとって、外部の専門家による知見と設計支援は極めて有用です。
特に、Maroo社のように設計から運用まで一貫して伴走してくれるパートナーがいれば、試行錯誤の末に3年かけて構築するプロセスを1年で立ち上げることができると感じております。す。リソースを最適に活用したい企業に、ぜひおすすめしたいです。
───ありがとうございました!